家庭備蓄の啓発コンテンツ

わが家に合わせた備え方

備えの答えは、家庭ごとに違います。「うちの場合」を考える手順をご案内します。

防災が面倒なのは、あたりまえです

「備えなきゃとは思っているけれど、つい後回しにしてしまう」。 もしそうだとしても、落ち込む必要はありません。 怖いことを考えるのは誰でも気が重いですし、毎日の暮らしだけでもお金と時間はかかります。 防災が後回しになるのは、ごく自然なことです。

だからこそ、このページでは「全部やりましょう」とは言いません。 わが家にとって本当に大事なところから、無理のない順番で始める—— そのための考え方を、順を追ってご紹介します。

ただ、後回しにしたままでいられないのも事実です。数字を3つだけ。

70〜80% 今後30年以内に南海トラフ地震が
発生する確率(政府 地震調査委員会)
約70% 今後30年以内に首都直下地震が
発生する確率(同)
約1.5倍 1時間50mm以上の短時間豪雨の
発生回数の増加(気象庁・直近10年比較)

大地震は「いつか」必ず来るもの、台風と豪雨は「毎年」来るもの。 この両にらみが、いまの日本の防災の前提です。 だからこそ、やみくもに怖がるのではなく、わが家に合った備えを効率よく選ぶことが大切になります。

買う前に、ひとつだけ。「安心」と「安全」は違います

防災用品を販売している私たちが言うのも変かもしれませんが、最初にお伝えしたいことがあります。 防災セットは、買っただけでは家族を守れません。

「安心」は、気持ちが落ち着くこと。 「安全」は、実際に危険が減ること。 この2つは別のものです。 セットを買って押し入れにしまい、そのまま忘れてしまえば、手に入るのは安心だけです。 むしろ「備えたつもり」になることで、かえって危なくなることさえあります。

買ったものが災害の時に本当に役立つかどうかは、 「わが家の場合」に合っているかどうかで決まります。 兵法の言葉を借りれば「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」。 防災の「敵」は住んでいる場所の災害リスク、「己」は家族の暮らし方です。

敵を知る=わが家のリスク

住んでいる場所で、どんな災害が、どれくらいの強さで起こりうるのかを調べます。

己を知る=家族の暮らし

家族それぞれの体・健康・生活習慣から、災害の時に困ることを具体的に想像します。

手順1:敵を知る——わが家のリスクを調べる

まずは、国が公開しているハザードマップで自宅の住所を調べてみてください。 地図に色を重ねるだけで、洪水・土砂災害・津波などのリスクが確認できます。

ハザードマップポータルサイト(国土交通省) →

地図を見たら、こんなふうに「自宅のまわりの実際の景色」に置き換えて考えてみます。

  • 自宅の場所に浸水や津波の色は付いているか。付いているなら、何分後に・どの深さまで来る想定か。川の近くなら、想定より早く来ると考えておく
  • 大きく揺れたとき、家の中で倒れたり落ちたりするもの(家具・家電・食器棚)はどこにあるか。特に寝室と出入口の近くはどうか
  • 避難路にあたる道の幅は十分か。古い家やブロック塀が倒れて道をふさぐ場所はないか。阪神・淡路大震災では、幅4〜6mの道路の多くが通行できなくなりました
  • 夜に停電して真っ暗になっても、家から安全に出られるか。避難する場合、どこへ・どの道で向かうか
ブロック塀や古い家屋が並ぶ、道幅の狭い路地
避難路になる道を、実際に歩いて見ておく。ブロック塀・古い家屋・道幅・側溝——地図だけでは分からない「わが家のリスク」が見えてきます

リスクの調べ方や避難のタイミングは、お住まいの市区町村が配布しているハザードマップ・防災情報もあわせてご確認ください。

知っておきたい、逃げ遅れの正体

豪雨や津波の被害調査では、「危ないと分かっていたのに逃げなかった」という声が繰り返し記録されています。 これは油断でも怠けでもなく、人間なら誰にでも働く心のクセです。 防災心理学では、次の3つがよく知られています。

正常性バイアス

「うちは大丈夫」「まだ大丈夫」と、危険を小さく見積もってしまう心の働き。異常事態を認めたくないのは、脳の標準装備です。

経験の逆機能

「前の台風も大丈夫だったから」。過去に助かった経験が、次はもっと大きい災害かもしれないという想像を邪魔します。

多数派同調バイアス

「近所の誰も逃げていないから」。周りに合わせて安心してしまう働き。逆に、誰かが率先して逃げれば、みんなが逃げやすくなります。

さらに知っておきたいのは、市町村の避難情報は、危ないときほど遅れるということです。 気象が急変する災害では、避難指示や特別警報が被害の発生に間に合わなかった事例が実際にあります。 「情報が出てから逃げる」ではなく、空振りを恐れず、明るいうちに早めに動く。 これがいちばんの安全策です。 避難とは避難所に行くことだけではありません。 親戚や知人の家に泊まる、安全な地域へ先に移動しておく——生命を守るために安全な場所へ移ることは、すべて立派な避難です。

豪雨被害のあと、畳や建具を軒下に立てかけて乾かしている家
豪雨被害のあとの片付け。浸水した家では畳も建具もすべて運び出して乾かすことになります。「避難情報が出る前に被害が出た」という証言は、被災地で繰り返し聞かれます

→ 豪雨・台風の備え(台風前日のチェックリスト付き)

手順2:己を知る——発災からの1週間を、家族の顔で想像する

一般的な持ち物リストは「平均的な家庭」のためのものです。 でも実際に災害にあうのは、平均的な誰かではなく、あなたの家族です。 発災の瞬間から1週間、わが家に何が起きるかを、家族一人ひとりの顔を思い浮かべながら想像してみてください。

逃げるとき

  • 自力で素早く動くのが難しい人はいますか(高齢の家族・小さな子ども・ペット)
  • 荷物を持って走れるのは誰ですか。全員分の荷物を1人で運ぶことになっていませんか
  • 夜・停電・雨でも、その避難は成り立ちますか
  • 家具が倒れて出入口をふさいだら、別の出口はありますか

その後の1週間

  • 毎日必要な薬・ケア用品はありますか(持病の薬・オムツ・コンタクト・入れ歯)。薬が切れたら体調が急変する人は?
  • 食べられるものが限られる人はいますか(アレルギー・偏食・かむ力)。食べ慣れないものを受けつけない家族は?
  • トイレを長く我慢できない人、寒さ・暑さに弱い人は誰ですか
  • 避難生活はどこで送りますか——避難所か、自宅(在宅避難)か、親戚の家(縁故避難)か

想像して出てきた「うちの場合の困りごと」こそが、わが家に本当に必要な備えのリストです。 車イス、高血圧の薬、抱っこひも、老眼鏡—— 一般のリストには載っていなくても、あなたの家には欠かせないものがきっとあります。 市販のセットに、この分を書き足したり入れ替えたりしていきます。

地震のその時、何が起きるか——時間軸で備える

大地震では、時間の流れに沿ってやるべきことが変わります。 それぞれの場面を知っておくと、「この備えは何のためか」がはっきりします。

  • 揺れる前の
    10〜20秒
    緊急地震速報が鳴ってから揺れるまでの、生命を守る時間。 タンス・窓・冷蔵庫・テレビから離れる。可能なら玄関の戸を開ける。 屋外ではブロック塀・外壁・軒下から離れる。寝ていたら布団にもぐる。 ガスコンロは無理に消しにいかなくて大丈夫です(今のコンロは揺れで自動停止します)。 スマホの緊急速報が鳴る設定になっているか、家族全員分を確認しておきましょう。
  • 揺れの
    約3分間
    とにかく揺れから身を守る時間。 この時間の安全を決めるのは、地震が起きる前の家具対策です。 倒れた家具に挟まれる、割れた食器で足を切る、停電の暗闇でパニックになる—— これらはすべて「逃げられない原因」になります。 寝室をいちばん安全な部屋にする(腰より高い家具を置かない)、 食器棚に留め具と飛散防止フィルム、玄関の靴箱も固定、逃げる動線に物を置かない。 家具の固定は金具留めがいちばん強く、穴を開けられない家でも突っ張り棒と粘着マットの併用で強度を上げられます。 多くの自治体に家具固定の補助制度があります。
    家具の上部を壁にネジ留めするL字金具
    L字金具での固定がいちばん強い。ネジ2本の作業で、家具は「凶器」から「壁」に変わります

    → 家具の地震対策(固定のやり方・賃貸の工夫・補助制度)

  • 揺れの後
    〜数十分
    安全な場所へ避難する時間。 揺れた後の家の中は、ガラスや破片だらけの危険地帯です。 「靴・懐中電灯・防寒着」は必ず枕元に。 閉じ込めに備えるならバールも心強い相棒です。 靴の中に踏み抜き防止の中敷きを入れておくと、ガラスの上も歩けます。 停電すると自動点灯する電球や、両手が空くヘッドライトも役立ちます。 そして鉄則がひとつ——防災袋を忘れても、絶対に取りに戻らないこと。 津波が想定される地域では、全速力で逃げられるかどうかが生死を分けます。
    袋に入れて枕元に置かれた子ども用の運動靴
    袋に入れた靴を、家族全員分それぞれの枕元に。ガラスの散った床から家族を守る、いちばん安いお守りです
  • 避難から
    1週間
    避難生活を生き延びる時間。 行き先は避難所だけではありません。津波避難ビル、自宅に留まる在宅避難、親戚・知人宅への縁故避難—— わが家はどこで1週間を過ごすかを想像し、必要なものを、必要な場所で使えるように備えます。 在宅避難でも遠慮はいりません。避難所で物資を受け取ることも、支援の相談をすることもできます。 水や食料を受け取るための容れ物を用意し、在宅避難を考えていることを家族や友人に伝えておきましょう。 長時間同じ姿勢が続く車中泊・避難生活では、エコノミークラス症候群の予防(着圧ソックス・足のストレッチ・水分補給)も大切です。

    → 避難生活と在宅避難(4つの選択肢と過ごし方)

出典・参考:気象庁「緊急地震速報について」、内閣府「防災情報のページ」ほか公的資料をもとに構成しています。

手順3:備えは「置き場所」で4つに分ける

必要なものが見えてきたら、ぜんぶを1つの袋に詰めようとしないことが大切です。 全部入れた袋は重くて走れません。 「いつ・どこで使うか」で4つに分けると、無理なく整理できます。

① いつも持ち歩く備え

外出先で被災した時のお守り

  • 小さなライト
  • 飴・ようかんなど高カロリーのお菓子
  • アルミ毛布(夏は熱中症対策の塩飴も)
  • 持病の薬(日持ちするもの)
  • 連絡先・持病情報のメモ、お薬手帳のコピー

② 持ち出す備え(防災袋)

避難するとき背負って走れる重さが絶対条件

  • 食べもの(ゼリー飲料・チョコ・レトルトお粥)
  • 薬・救急セット・処方箋のコピー
  • 水(背負って重くない範囲で)
  • 明かりと情報(懐中電灯・ラジオ・充電器・予備電池)
  • 防寒(アルミ毛布・カイロ・靴下・雨具)
  • 衛生(マスク・ウェットティッシュ・携帯トイレ・レジ袋)

→ 防災袋のつくり方(完全チェックリスト付き)

③ 家に置く備え

在宅避難・生活再建用の1週間分

  • 水・レトルト食品・燃料をまとめ買い
  • 日常の食事でふつうに使う
  • 使った分だけ買い足す(ローリングストック)
  • かかりつけ医と相談し、薬も多めに

④ 分けて置く備え

重いものは1か所に抱え込まない

  • 車・職場にも最小限の水と食料
  • 避難先になりうる親戚宅にも一部を
  • マンションなら防災倉庫・集会室の活用を相談
  • 地域で分担して備える方法も
非常食・電池・マスク・衛生用品を詰めた透明の備蓄コンテナ
各世帯の備蓄を透明ケースに詰め、避難スペースへ先に置いておく地区の取り組み「生命の箱」。重い備蓄は「先に運んでおく」のも立派な分散です

防災袋ができたら、一度背負って歩いてみてください。 重すぎたら軽くする。持ち出す備えは60点の中身で軽いほうが、100点の中身で走れないより、ずっと安全です。 それぞれの品目と分量の目安は、 備蓄のきほんの目安表と わが家の備蓄チェックリストをご活用ください。

続けるコツは、暮らしと兼用にすること

備えを「防災のためだけの特別なこと」にすると、続きません。 普段の暮らしで楽しい・役立つ・お得なものが、災害時にも役立つ—— そんな兼用の形にすると、無理なく続きます。

アウトドア用品は最高の避難生活グッズ

キャンプ用のテント・マット・寝袋・ランタンは、そのまま避難生活の装備になります。 庭遊びやバーベキューで使いながら備える——「使いながら備える」がいちばん確実です。

100円ショップは備えの宝箱

アルミ毛布、カイロ、着火剤、ブランケット、給水袋。 少額から揃えられるので、「今日から始める」のハードルが一気に下がります。 買い物ついでに防災コーナーをのぞく習慣を。

家族みんなでタンスまわりの片付けをしているイラスト

家族の行事にしてしまう

休日に家族で家具の固定と片付けをして、ごほうびに外食。 離れて暮らす家族とは「危ないときは連絡して」と約束しておく—— 大雨のとき、あなたからの一本の電話が家族の避難のきっかけになります。
(イラストはAI生成のイメージです)

災害時の助け合いの研究では、倒壊した家から救出された人の多くを助けたのは、消防や自衛隊ではなく家族や近所の人だったことが知られています(阪神・淡路大震災の調査より)。 普段のつながり自体が、いちばんの防災資源です。

60点でいいので、今日から始める

ここまで読んで「やることが多いな」と感じたかもしれません。 でも、完璧を目指す必要はありません。 100点の備えをいつかやるより、60点の備えを今日から。 災害は、準備が整うのを待ってくれないからです。

まずはハザードマップを開く。寝室のいちばん危ない家具をひとつ動かす。枕元に靴とライトを置く。 今夜できることだけでも、昨日より確実に安全です。

そのうえで——非常食の組み合わせを考えたり、保存年数や規格を比べたりする部分は、正直かなりの手間です。 その手間が理由で備えが止まってしまうくらいなら、そこは私たちに任せてください。

非常食26種セット(アルファ米中心・3日分〜)

「同じ味ばかりで食べ疲れる」という備蓄食の一番の課題に向き合った、26種類すべて違う中身のセットです。 家に置く備えの土台にして、このページの手順で「わが家の分」を書き足してください。

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セットを土台にして、手順2で見つけた「うちの場合」の分を書き足す—— それが、いちばん現実的で、いちばん確かな備え方だと私たちは考えています。

本ページの監修について

本ページおよび当店商品の内容・表示は、コミュニティ防災の専門家である 高知大学 防災推進センター 大槻知史教授(地域協働学部)に、専門的な立場からご確認をいただいています。

監修者プロフィール

大槻 知史(おおつき さとし)
高知大学 防災推進センター/地域協働学部 教授
博士(政策科学)

専門は、コミュニティ防災・防災教育・防災商品開発・ゲーミング。 「いつも防災」(普段の暮らしと防災をつなぐ考え方)を掲げ、 南海トラフ地震に備える高知の地で、地域と連携した防災の研究・実践に取り組む。

主な研究・活動

  • 防災行動を後押しする行動変容モデルの研究(科学研究費採択課題)
  • 避難所運営を疑似体験するゲーム教材の開発・普及
  • 沿岸部と農村部の事前連携による津波防災の研究
  • 共著書 Invisible hands: institutional resilience and tsunami risk(UCL Press, 2022)
  • 防災講演会・ワークショップ多数、テレビ・新聞などメディア出演

本ページの「わが家に合わせて備える」という考え方は、大槻教授の防災教育・講演の知見をもとに構成し、 内容について教授の確認を受けています。 ページ内の現場写真は、大槻教授のご提供によるものです。